綿菓子屋映画雑記帳 -8ページ目
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航路

コニー ウィリス, Connie Willis, 大森 望
航路〈上〉

 

コニー ウィリス, Connie Willis, 大森 望
航路〈下〉

 

 

 分厚い文庫が上下二巻、400字詰原稿用紙で2060枚だそうです。中身は三部に分かれていて第二部の最後で重要人物が死んじゃいます。余りもの驚きに第三部を夜更かしして一日で読み切りました。生き返らせてくれと願いながら読み進んだんですが、奇跡は起こりませんでした。生きるも死ぬも作者次第なのだからどうにでもなったものを、作者はこの小説のテーマ故にささやかな読者の望みを絶ち切りました。ラストに希望は残りますが、作者の鉄の意志がヒシヒシと伝わります。
 
 かなりメッセージ色の強い作品です。臨死体験を描きつつ科学的な解明を試みています。その信奉者からは確実に反論されてしまうような挑戦的な濃い内容です。それなのに有無を言わせない長大な小説として描ききってしまう作者のストーリー構成力は凄いの一言としか言い表しようがありません。二重三重に張り巡らされた伏線と驚きの展開には文句のつけようがなく、謎解きに持って回った語り口や隠し立てはないですし、謎の突起さと矛盾の多さに腹が立つこともありません。混迷する世界を描きながらすべてが計算し尽くされています。地面を這い回る蟻も重要な宇宙の一構成員であるように、一語一句はすべて重要な意味を持ち、積み重ねられることで壮大な世界が形作られます。
 
 登場人物達は隣接された二つの総合病院とひとつの看護学校が統合された大病院に勤務しています。建物の中は複雑怪奇な構造で内部をすべて知るものはごくわずかです。深まる謎と解き明かされる謎を追い求めながらあちらこちらとシナプスのように人々は行き交い、脳の内部を隠喩する複雑な構造の病院を彷徨います。

 
 自明の理なのに思い出せない事柄と行き違いになり出会うことのない二人。すべてが提示され分かりきっているのに、いざというときに見当たらない連絡通路。そこにあるのに手の届かない黄色いロープで通行止めされた階段。試行錯誤はエンエンと繰り返され、エレベーターを上に下にと乗り継いでも遠のく目的地。欠落した記憶はいつも邪魔者によって阻止され、閉ざされている情報はいつも閉まっているカフェテリア。知識の泉と魔法のポケット。不気味に扉が並ぶ廊下はいつも行き止まり。迷子。みんな迷子。
 

 解決のための糸口はどこからでも素早くどこへでも行けるようにすること。人を助けるためには誰も何処でも滞ってはいけません。立ち止まらないように。新しく建て直すことが出来ないのなら、自分ですべてを結ぶ直通ルートを見つけ出さなければ。知ることでやっと出来ることは多いから。多大な犠牲に報いるためには。
 
 
 地球上の大災害のいくつかは記録され細部にまで言及されています。残された生存者の貴重な体験談はどこまでが真実なのでしょうか。辻褄を合わせるために知らず知らずに作話されてしまった部分もあるでしょう。
 そして、生き返った人が持ち帰ったメッセージはなんのためにどこから発信され、誰に宛てられていたのか。
 
 
 奥深いテーマではあるんですが、それでも悲しい物語を読み進むのはつらいものです。魔法の薬は見え隠れしているのについに最後まで戸棚から取り出されませんでした。感動の大傑作であることは確かなんだけど、心痛むことも、また事実です。

 
 
コニー・ウィリス著、 大森 望訳 ソニー・マガジンズ刊

アメリカン・スプレンダー

アミューズソフトエンタテインメント
アメリカン・スプレンダー

 

 

原題    American Splendor
制作    USA
公開年   2003年
邦題    アメリカン・スプレンダー
ジャンル  Drama / Comedy
監督    Shari Springer Berman
       Robert Pulcini
 

配役          役名       役柄
Paul Giamatti     Harvey Pekar  病院の書類係・アニメの原作者
Hope Davis      Joyce Brabner  コミック店店員・Harveyの妻
James Urbaniak    Robert Crumb   アングラコミックの旗手
Judah Friedlander   Toby Radloff  病院の職員
Madylin Sweeten   Danielle     養女
Earl Billings      Mr. Boats    Harveyの上司
James McCaffrey   Fred       作画家
Harvey Pekar     Real Harvey Pekar
Joyce Brabner     Real Joyce
Toby Radloff     Real Toby
Danielle Batone    Real Danielle


 Harvey原作の同名のアメリカン・コミックを映画化。原作はHarveyの日常を描き、実在の人間を扱っています。だから、主人公はPaul Giamattiが演じる漫画化されたHarveyなんですが、本物のHarveyと随所で入れ替わります。そのHarveyの後ろに俳優のPaul Giamattiがいたりします。実在の人物はコミック以上に個性の強いキャラクタなので入れ替わっても違和感は全くありません。巧みに描き分ける脚本や実在の人物を演じきる俳優も秀逸です。
 但し、題材はHarveyの半生なので取り分けてドラマチックな物語ではありません。キャラクタとのふれあいが楽しめました。本人曰く、「人の不幸でみんなが慰められる」コミックだそうです。

 

評価  4

 

Harveyの半生
1939年10月8日オハイオ州クリーブランド生まれ。ユダヤ系移民。
1962年 強迫神経症的ジャズレコードコレクターだったHarveyはCrumbと出会う。
1975年 喉が腫れて声がかすれる。数ヶ月大声を出さないこと。医者の妻に逃げられる。
1975年 Crumbが戻る。原作を書き始め、Crumbがアニメに描く。
1976年 自費出版で創刊。
1980年代 8冊発行。名前は売れたがコミックだけでは食えない。
1983年 書店店員のJoyceと結婚。
1986~88年、Late Night With David Letterman レターマンショーに出演。
1990年 腫瘍が発覚。一年の闘病生活をコミック小説Our Cancer Yearにする。全米図書賞受賞。
1997年 養女を迎える。
2001年 病院は定年退職。映画になる。「死ぬまで健康でいて話題作を残したい。」

『心中天網島』(1969)

東宝
心中天網島

 

 

 

DVDを予約していた篠田正浩監督の『心中天網島』(1969)をやっと観ることができました。

 
 その昔東宝や東和がマイナーな外国映画を配給するためにATG(アートシアターギルド)を設立しました。ゴダールの映画などロードショーでは見ることのできない数々の名作を日本に紹介した功績はかなり大きかったと思います。ビデオもDVDもない当時では映画館で上映されない限りその映画に接することはできませんでした。ATGで配給した映画にヒット作もありましたが、当時の映画館はほとんどが配給会社の直系で占められており、別系列の映画が上映される余地はほとんど残されていませんでした。ATGも東京、大阪、名古屋などに直系の映画館を持っていましたがとても地方までには手が届いていません。それでも歴史的に見れば短い期間だったでしょうが、ATGは日本の映画界に大きな影響を与えたと思います。

 そのころ、東宝、松竹などの大手映画制作会社の斜陽がはっきりしてきて、才能溢れる監督でも映画を制作する機会が少なくなってきました。ATGは1000万円の低予算ながら日本映画の制作に乗り出し、独立を望む若手、中堅監督や才能ある新人監督の多くの作品を発表しました。特に初期には松竹ヌーベルバーグの旗手たち、大島渚、吉田喜重、篠田正浩らがATGで多くの新作を発表しています。個人的にはその中の最高傑作のひとつが『心中天網島』と思っています。篠田正浩監督はそれほど好きな監督ではないのですが、この映画だけは特別に愛着を抱いています。でも、近くのレンタルビデオ屋さんにはこれがなく久しぶりに見たくても見られない寂しい思いを抱き続けていました。待ち焦がれていた名作の待望のDVD化です。
 
 『心中天網島』は低予算のため、モノクロで、セットは舞台の書割、少ない出演者と見るからに貧弱なのですが、篠田正浩監督の描き出した映像の美しさはモノクロ世界の極致、前衛的なまでに絞り込んだセットは日本の様式美の極限と言っても決して言い過ぎではありません。粟津潔の美術と武満徹の音楽で浄瑠璃の世界を見事に甦らせています。
 主演の岩下志麻は日本女性の美しさを妖艶さ、可憐さ、脆弱さ、手強さなどを織り交ぜながら様々な角度から見事に表現しています。その演技力の確かさにはきっと驚かされることでしょう。

  
 大作ではなくそっと心の隅に残しておきたい珠玉の名品、一粒の黒真珠のような輝きを放つ映画です。テレビの画面ではモノクロ画面の地味さゆえに映像美が半減してしまいます。できればこうした映画だからこそ大きなスクリーンで見たいと思うのですが、それは叶わないでしょう。
 DVDで『心中天網島』を鑑賞するときには可能な限りにその世界にどっぷりと浸れる環境を作って意を決して見てください。

 この文章はうろ覚えのまま書いたもので史実とは違います。悪しからず。

犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎

コニー・ウィリス, 大森 望
犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎

 

 

 その時の彼女はびしょ濡れだった。タイム・トラベルの時代差ぼけで一時的な惚れ症を患っていた主人公の僕は彼女を水の精ナイアスと思い込んでしまう。勘違いとわかっているのにどうしようもなくナイアスが美しく見えてしまう。だから、ナイアスの描写になるとその部分だけ誉め言葉の連続になる。ナイアスの立ち居振る舞いすべてがこの世の者とは思えないぐらいに優雅で美しい。実は、ナイアスことキンドル、ビクトリア朝時代ではヴェリティも物語半ばで主人公に対して同じ症状だったと朦朧とした意識で告白する。二人の絆はいよいよ強まり、クライマックスでは互いに全幅の信頼を置いて、手と手を取り合って窮地を脱するのであった。

 なのですが、二人の恋愛はこの小説の本筋ではありません。傍流でしかなく、この小説はSFでありミステリであり、決して単なる恋愛小説ではありません。殺人事件は起こらないのですが、謎が謎を呼び二人は迷宮へと誘い込まれます。歴史の一大事だからロマンスなど二の次なのです。二人が知らず知らずに招いた時間軸の乱れを修復することが何よりも急務です。悪くすればナチスが勝利を収め、僕の現在、2057年が180度変わってしまいます。すべては二人の活躍にかかっているのです。
 だから、二人で仲良く謎を解きます。本当に最後の最後まで羨ましいぐらいに仲の良い二人が大活躍します。

 鳥株とは何か?
 さんざん出てくるのにその正体は中盤になってやっと明かされます。それでも実物を見ないことにはいつまでも正体不明のままでしょう。

 令嬢の結婚相手のMr.Cとは?
 読み返すと、あらゆる所にヒントが隠されていました。それでもわからないことが円満解決に不可欠な絶対条件なのでした。

 ヴェリティが溺れている猫を偶然助けてしまったことから始まる物語は、冒頭ののんびりしたボートによる川下りから一転して、タイムトラベルものなので必然的に、時間と空間を飛び回りながら慌ただしく結末へと転がり込んでいきます。
 愛くるしいブルドッグは残念ながら何もしゃべりません。

 偶然と思っていたことのすべてが偶然ではなく、たとえ5分のずれでも歴史的必然であったことがラストで証されます。長大な物語はすべて丹念に織り込まれたタペストリーでした。何枚ものタペストリーが重ね合わされているのに、すべてが一本の糸でそれこそ時空を超えて繋がっていたのです。その構成の見事さはまさに脱帽です。そこまで作者の罠にはまっていたとは読み終えるまで気が付きませんでした。

 タイムトラベルものはどうしても物語に無理が生じ、矛盾やパラドックスだらけで、叩けば叩くほど埃が出てきます。最近のハリウッド映画のタイムトラベルものはほころびを繕いもしないで平然としています。物語を突っ込んで語るのはタブーであり、映画を楽しむためには見て見ない振りをしなければいけません。片目を薄く開けていてもいけません。ださくない人は映像を話題にしても良いですが、物語を語ってはいけません。イケメンか美人女優を観賞するにとどめましょう。
 しかし、この小説はそんな齟齬を物語の枠組みにしっかり組み込んでいます。のんびりと川下りをしている風を装いながら、作者はストーリー展開に穴があったら教えてくれと逆に問いかけてきます。マルクスが亡くなって5年後の世界を舞台に唯物史観とそれまでの歴史学との論議を描きながら、人為的な歴史上のターニングポイントを随所に置いて歴史のイフを弄びます。タイムトラベルものが陥る自己矛盾もパラドックスもなんのその、すべてはカオスだからと素っ気ない顔をして、ちゃんとあらゆるものを巻き込んで消失点に向けて収束していきます。

 しかも、更にその裏があったとは・・。

二人は二人でひとつの駒だったとは・・。

 去年の暮れからずっと読んでいます。最初は一気呵成に読破したのですが、それから何度も読み直しています。次に読みたい本をすでに何冊か買い込んであるのですが、まだ他の本に移ることができません。読み終わってもまた読み始めたくなります。ヴィクトリア朝時代にどっぷりと浸かっていてその世界を忘れることがまだ出来ません。題名の元になった『ボートの三人男』は読みましたが、他の本を読んでも今の状況ではとても違う世界に入り込めそうにありません。海の底深くにダイビングしていますので当分は地上に戻れないと思います。
 本の装丁が崩れかけていますが、気に入ったひとつのおもちゃをボロボロになってもいつまでも手から離さない幼子のように、この小説の呪縛から解き放たれるその日までこの小説を読み続けたいと思っています。

コニー・ウィリス著、 大森 望訳 早川書房刊

25時

角川エンタテインメント
25時

 

 

原題    25th Hour
制作    USA
公開年   2002年
邦題    25時
ジャンル  Crime / Drama

監督     Spike Lee
原作・脚本 David Benioff

配役             役名        役柄
Edward Norton       Monty Brogan  ヤクの売人
Philip Seymour Hoffman  Jacob Elinsky  高校教師・Montyの親友
Barry Pepper        Frank Slaughtery 株のディーラー・Montyの親友
Rosario Dawson      Naturelle Riviera  Montyの恋人
Brian Cox          James Brogan   バーの経営者・Montyの父親
Anna Paquin        Mary D'Annunzio 高校生・Jacobの教え子
Tony Siragusa       Kostya Novotny  Montyの相棒
Levani Outchaneichvili  Uncle Nikolai    Montyのボス

 

あらすじ

 
Montyは頼まれているうちに本物の売人になっていた。ある日ガサ入れがあり隠しておいたヤクが見つかる。
Montyは明朝7年間服役するために刑務所へ自ら出頭しなければならない。拒否すれば、一生逃げ回ることになり保釈金の担保にした父の店は没収される。
Montyは二人の親友や恋人、仕事の仲間と別れの儀式とも言える貴重な一夜を過ごす。
そして、父親に送られて刑務所に向かう。もし、このまま西に逃げるとひょっとすると別の人生が待っているかも知れない。

 
評価   5

 

感想

 

デイヴィッド ベニオフ, David Benioff, 田口 俊樹
25時

   

原作を読んでとても気に入った作品です。サスペンスでもアクションでもミステリでもないのにそのすべての要素をあわせ持っているような不思議な小説でした。

 
映画化されるとあとがきにあり心待ちにしていました。

 

  

刑務所へ行く前夜、始末を次々とつけていくたびに心は重くなります。主人公の気持ちを反映して物語も暗くなります。そして、もう夢を語ることさえ出来ない地獄へ行く一歩手前で、主人公は最後の夢見る瞬間に別の人生を生きます。文庫本で数ページもないその瞬間は今までと一転してさりげなく華やかで健康的で家庭的です。スリルもサスペンスもない変わりに平穏で充実した人生を過ごします。

 

人生なんて夢うつつ。人生は朝露の如しと故事に言うそうです。夢で見ている人生と現実と思い込んでいる人生はひょっとしたら逆かも知れない。少なくとも夢の中でもう一つの人生を送ることは出来るかも知れない。夢の中だけで生きるもうひとりの自分を生きられるかも知れない。
 

確かにそうした現実と夢世界を融合させてしまったSFは小説にも映画にも数多くあります。しかし、この小説は夢が主役ではありません。夢が語られるのはラスト間近の一瞬だけです。夢は語られるや昇華していきます。 

その瞬間のために緊張が高められてきていますが、決してその夢を描くためにこの物語があるわけではありません。でも、その夢が語られているから、この小説が成り立っています。自己嫌悪の泥沼から夢の世界に解き放たれた瞬間に読者は不思議な癒しを得ることが出来ます。

でも、繰り返しますが、夢がテーマではありません。人生、友情、恋愛そのすべてが語られています。 

 

思い入れが深いだけに映画化が怖い作品でした。ズタズタに引き裂かれて原作の見る影もなかったり、設定だけを引き継いで原作とは無関係だったり、消化不良で原作を描ききれなかったりして、好きな原作がボロボロにされて今までに何度怒り狂ったことやら。

 

しかし、この映画は原作者が脚本を書いています。楽しみは倍加しました。期待は膨らみました。

映画館で観て、DVDも購入しました。映画はほぼイメージ通りの出来で満足させてくれました。期待は裏切られていません。ただ、もう少し夢が成就できたかのように描かれても良かったのにとも思いました。


DVDには原作者のコンタリーも収録されていました。ファンには何よりのプレゼントです。これほど原作者の考えを逐一知る機会は他にないでしょう。納得したり驚いたり、少しガッカリしたり・・・。

ちなみに、David BenioffWolfgang Petersen 監督、 Brad Pitt 主演の Troy (2004) の脚本を書いています。疑問符の付く脚色でしたが、今後は小説家としてよりも脚本家として活躍されるらしいです。

 

監督のSpike Leeは好きではありません。特に苦悩の演技をしている俳優を台車に乗せて人混みを走らせるのは不自然で違和感を感じます。監督の好きなショットですが、そんなことをしなくても感情を心の奥底から表現できる素晴らしい俳優を揃えているのだから十分に描ききれるはずです。むしろ演出過剰。普段よりは抑え気味でしたが、もっと抑えて欲しかった。

映画では「グラウンド・ゼロ~9・11跡地風景」もニューヨークを語る上での重要な要素として描かれています。

 

主人公の相棒役として出演しているTony Siragusaは、Sports Illustrated誌の表紙を飾ったことのある有名な元NFLプレーヤーです。2001年(2000年シーズン)のスーパーボウルで優勝したBaltimore RavensのDT(Defensive Tackle・ディフェンシブタックル)として巨体に似合わない俊敏なタックルで相手の攻撃を止めていました。アメリカでは全国的に幅広く人気のある選手で、現役引退後NFLの試合のレポーターとしても活躍しています。

 

最後に、一番腹が立ったのはDVDのキャッチコピーでした。

 
投獄までの最後の一日。
 残された選択肢は3つ
 1. 服役 2. 逃亡
    そして・・・3.自殺

 
とありますが、最後の自殺は全くの嘘です。小説にも映画にもそれをほのめかすような語句は出てきません。これでは原作のテーマを否定してしまいます。
日本的な売り込み文句なのでしょうが、ねじ曲げてまでも変な感傷に訴えるような真似はして欲しくありませんでした。

CODE46

ハピネット・ピクチャーズ
CODE46

 

 

原題    Code 46
制作    UK
公開年   2003年
邦題    CODE46
ジャンル Romance / Sci-Fi

監督    Michael Winterbottom
配役           役名          役柄
Tim Robbins        William       Sphinx社の調査官
Samantha Morton    Maria Gonzales  上海のSphinx社の従業員
Jeanne Balibar      Sylvie        Williamの妻
Taro Sherabayani     Jim         Williamの子供
Om Puri          Bahkland      上海Sphinx社のの管理者
Bruno Lastra       Bikku        Mariaの同僚
David Fahm        Damian Alekan  コウモリ学者
Levani Outchaneichvili  Uncle Nikolai   Montyのボス

評価  3


感想

管理社会に対するひとつの批判としても受け取れるのですが、近親相姦に関する問題が最後まで曖昧なままでした。素直にこの映画を観れば、近親相姦を肯定しているようにも見えます。


あらすじ

法規(code) 46
第1条
同じ核遺伝子を持つ者は遺伝学的に同一でありすべて血縁と見なす。
体外受精、人工授精、クローン技術に際して同じ遺伝子間の生殖はいかなる場合も避けること。
従って、
1:子作りの前に遺伝子検査を義務づける。遺伝子が100%、50%、25%同一の場合受胎は許されない。
2:計画外の妊娠は胎児を検査すること。100%、50%、25%同一の両親の場合は即中絶せねばならない。
3:両親が遺伝子の同一性を知らない場合、code46違反を避けるべく医療介入する。
4:同一性を知りながらの妊娠はcode46に違反する重大な犯罪行為である。

Sphinx社の調査官のWilliamには他人の考えを読む特殊能力があった。
Williamは偽造滞在許可証(パペル)の調査でシアトルから上海のSphinx社に行く。
尋問してすぐに犯人はMariaだとわかるが、WilliamはBahklandにBukkiuが犯人と報告する。

Williamは会社帰りのMariaを尾行する。ナイトクラブでMariaはコウモリ学者でインドのコウモリを一度は見たがっているDamianに違法パペルを渡す。同席していたWilliamは見逃す。
Mariaの部屋でふたりは愛し合う。Williamは家に帰る。


Damianがインドで死亡。インド地方の感染症に弱い体質だった。パペルの発行が止められていたのに何も知らないDamianはMariaの偽造パペルでインドに渡航していた。
Williamは再調査のために再び上海に派遣される。

Mariaは身体的な理由で市外の病院に入院していた。
医者から機密事項を聞き出す。Mariaは妊娠していた。code64違反で隔離されていた。
Mariaは中絶させられ妊娠に関する(相手の男・性行為・妊娠)の記憶を消去されていた。Williamを覚えていない。

WilliamはMariaを強制退院させ、記憶を思い出させようとする。Mariaは漠然とした喪失感で不安になる。
WilliamはMariaとの遺伝子同一性を調べる。50%の同一性で母が同じ。Williamは人工授精の子で、母親は24体のクローン胎児のひとりだった。
ショックを受けたWilliamは上海から逃げ出そうとする。しかし、滞在が長引いていたWilliamのパペルは期限切れで出国することも滞在することも出来なかった。
WilliamはMariaのもとに戻る。

Mariaが手に入れた違法パペルで二人はMariaの父の出身地Jebel Aliに行く。
MariaはWilliamとのセックスを避けるように洗脳されていた。Mariaの欲求が勝る。激しく燃える。
翌朝Mariaは無意識で自分の罪を密告した。

WilliamはMariaと逃げ出す。らくだの群れを避けようとして道路から飛び出し、車は横転する。

WilliamはMariaの記憶を抹消されて家族の元に戻る。判断ミスの原因として特殊能力を失う。
Mariaは街の外に追放された。記憶を残したまま。

エターナル・サンシャイン

ハピネット・ピクチャーズ
エターナル・サンシャイン

 

 

原題   Eternal Sunshine of the Spotless Mind
公開年  2004年
邦題   エターナル・サンシャイン
ジャンル Romance / Drama / Comedy

監督   Michel Gondry
脚本   Charlie Kaufman
配役          役名            役柄
Jim Carrey      Joel Barish        会社員・イラストレーター(?)
Kate Winslet     Clementine Kruczynski 書店店員
Tom Wilkinson    Dr. Howard Mierzwiak  Lacuna inc.代表
Kirsten Dunst    Mary             Lacuna inc.受付嬢
Mark Ruffalo     Stan             Lacuna inc.専任技師
Elijah Wood      Patrick           Lacuna inc.助手
David Cross     Rob             Joelの友人
Jane Adams     Carrie            Robの妻
Thomas Jay Ryan  Frank           Joelの隣人
Deirdre O'Connell  Hollis            Howardの妻

評価  5

感想

愛さずにはいられない真実の愛に感動できました。

相手を忘れても、忘れてもその相手を愛してしまうなんて考えられません。かなり図太い鉄製の赤い糸です。

本当にそんな愛があるとは思えない(経験したことはない)でのすが、だからこそ、最高のファンタジー映画だと思いました。

 
映画館では早くから予約していたので中央の座席で観ていました。

上映が終わって明るくなると、前の席にいたカップルが眠そうな顔で半分自嘲気味に後ろを振り返っていました。
きっと映画のペースに巻き込まれて訳がわからなくなって物語について行けなくなったんだろうと思います。ふたりは他の観客の表情を探るような目つきで見回していました。自分たちと同じように宙に浮いたまま梯子を外され退屈してしまった観客を捜しているかのようでした。
パンフレットは図解して説明しているものの内容は中途半端で理解の助けになるとは思えません。
あのカップルにはこの映画について懇切丁寧に時間をかけて教えてあげたいと思ったのですが、そんな差し出がましいことは、映画館で、ましてや見ず知らずの他人には出来ません。

ただ自信たっぷりで彼らの視線に応えるだけ。もちろん視線を合わせてはもらえませんでしたが。

 
そこでここに書き連ねることにしました。

以前は Movie scribble  で映画の記録をつけていたのですが、容量の関係かデータをアップできなくなり、一年以上休んでいました。
これを機会にボチボチこのブログを充実させたいと思っています。

あらすじ (時間軸に沿って再構築)

6JoelがClementineと初めて会ったのはRobの友人たちのピーチ・パーティだった。場所はロング・アイランド島北端の夏のリゾート地Montaukの砂浜。
29パーティを楽しめないJoelは砂浜に降りる階段に座って一人でバーベキューを食べていた。Clementineもパーティに馴染めず波打ち際で佇んでいる。赤い服が目立った。
ClementineからJoelに話しかける。その場ですっかり意気投合した二人はみんなが帰ってからも日の暮れる砂浜で遊び続けた。
Clementine : What do we do?
Joel : Enjoy it.
海の別荘は季節外れで誰も住んでいない。Clementineは別荘に無断で入り冷蔵庫やワインセラーなどを勝手に物色する。Joelは制止しながらも渋々付き合う。
段々にエスカレートして二階に登っていったClementineの奔放さに怖じ気づいたJoelは彼女を置いて先に家に帰った。



27Joelはナオミと同棲していたのだが、Clementineを忘れられなかった。JoelはClementineの勤め先の書店に行って一人で帰ったことを謝り、改めてやり直そうと交際を申し込む。
内気なJoelと気まぐれで活発なClementineの同棲生活が始まる。



15二人でボストンにあるチャールズ川の氷面に寝転んで眺める夜空の星。
19ドライブインシアター。
23雪のMontauk。
25ニューヨークをパレードするサーカスの象の行列。
10ボストンの蚤の市。

やがて倦怠期を迎える。子供を生みたいClementineに対し、Joelは消極的で、小さな諍いのタネが生まれる。

12二人の間の亀裂は徐々に広がる。Clementineには心を開かないJoelがもどかしい。
対話のない食事。Clementineは一人で夜の街を徘徊するようになる。

8夜中の3時に帰り、車をぶつけても無責任なClementineをあばずれとなじるJoelに、Clementineはついに切れて家を出て行く。
Clementine : I'm fucking crawling out of my skin. I should've left you at the flea market.



4数日後、バレンタインディ3日前、Joelが連絡しようにもClementineは直ぐに電話番号を変えていた。Joelはプレゼントを買い求めて謝りに書店へ行くが、JoelはClementineに完全に無視される。Clementineはすでに若い恋人を作っていた。ClementaineはJoelを全く知らない風を装う。
Joelは途方に暮れてRobに相談するが、Robから恐ろしい事実を教えられる。Lacuna inc.からの手紙を読まされる。
2ClementineはJoelの記憶を消し去っていた。ClementineはJoelを忘れた。自分を知らない。抹消された自分。泣き崩れるJoel。



5翌朝、JoelはLacuna inc.を訪ね説明を求める。Howard医師から直接Clementineが記憶の消去を望んだと聞かされる。信じられないが記憶の除去は実際に行われていた。


悩んだ末、Joelは同じように自分からClementineの記憶を消してくれと頼む。
記憶の消去は順番待ちなほど盛況だがHoward博士はJoelの特例を認めてすぐに許可する。
JoelはClementineとの思い出の品をすべてゴミ袋に入れてLacuna inc.へ持って行く。写真、服、贈り物、思い出の品・・・。「すべてを忘れて新しい人生を始める」ために。


Joelは博士にClementineとの出会いから別れまですべてを話す。それはテープに録音される。
Lacuna inc.では思い出の品を一つずつを取り出してJoelの脳内の反応を写し出し、Clementineの記憶箇所を辿って関連性を地図に描いていく。



3その夜、バレンタインディ前夜、Joelの部屋で記憶除去の施術が行われる。8時半にJoelは睡眠薬を飲んで深い眠りにつく。近くで待機していたStanとPatrickは直ぐにJoelの部屋に機器を設置して記憶の除去作業を始める。

7Joelの記憶が逆回転で映し出される。Joelは過去の自分を見ることになる。
夢の中でJoelは半分覚醒していた。Joelは現れては消えていくClementineとの愛の記憶を見せつけられる。それはけっして失いたくない貴重な宝物だったと思い知るがもう遅い。記憶の除去はひとつずつ進行していく。喪失していく。
9夢の中でJoelは家を出て行ったClementineを追いかけるがすぐに見失う。
眠っているJoelだがStanとPatrickの会話は聞こえていた。PatrickはClementineの記憶除去施術も手伝っていて、眠っているClementineに一目惚れし、内緒でClementineのパンティを盗んでいた。

11Joelの記憶除去作業は自動消去モードで単調に進む。
StanはMaryを呼び出す。MaryはPatrickを無視する。Patrickは女性にもてないのが悩みだった。
13PatrickはClementineに電話する。Clementineの新しい若い恋人とはPatrickだった。
PatrickはClementineをTangerineと呼ぶ。それはJoelとClementineの二人だけの愛称だった。Joelは秘密を知っているPatrickに嫉妬するがどうしようもない。Joelは眠っていた。



厭な思い出でしかないからJoelの記憶を消したはずなのにClementineは満たされない日々を送っていた。黒い雲のように溢れ出る不安のその理由がわからなかった。Clementineは半ばパニック状態になっていた。Clementineは折良く電話してきたPatrickに助けを求める。



14ベッドの中でClementineは子供の頃ブスだと劣等感を抱いていたとJoelに話す。大切なClementineの記憶。
Clementine : Joely, don't ever leave me.
Joel : You're pretty... you're pretty... pretty...
Joelは記憶除去作業を中止させたいが外の人間に伝える術はなかった。
Joel : Mierzwiak! Please let me keep this memory, just this one.
Clementineの記憶が消えて行く。自分から望んだこととは言え一大事だった。何とかClementineの記憶を守らなければ。失いたくない。しかし、Joelがどんなに大声で叫んでも外の人間に聞こえない。Joelは眠っていた。


16Joelは夢の中でClementineにすがりつく。一緒に逃げ出す。駅、友人の家、どこへ行っても二人でいた記憶は消えていく。空白が広がる。Lacuna inc.の博士に中止してくれと頼むが博士には聞こえない。



PatrickはJoelが捨て去った思い出の品を頼りにClementineの気をひこうと懸命に頑張るのだが、Clementineの心を得ることはできなかった。Clementineの欠けた心を満たすことはPatrickには不可能だった。
ClementineはPatrickをチャールズ川に誘い一緒に氷面に寝ころぶが、Patrickが相手ではClementineが望んでいた夜空を見ることはできなかった。
ClementineにはJoelと氷面で星空を見た覚えはない。記憶は抹消されていた。それでもClementineの見たいのはあのJoelと一緒に見た冬の氷の上のでたらめな星座の浮かぶ星空以外にあり得ないとClementineは感じ取っていた。
Clementineの心は彷徨っていた。キーワードは、Montauk、チャールズ川・・・。
Clementineは忘れた何かを探すために一人でMontaukに向かうだろう。季節外れの誰もいない何もないMontaukこそClementineの大切な場所。そこへ行ってもClementineにその場所の意味はわからい。それでも行かなくては。



17夢の中では、JoelはClementineの提案で、Joelの子供の頃の記憶の領域にClementineを埋め込もうとする。母親にべったりくっついて離れない甘えん坊のJoelの子守としてClementineが登場する。幼児に還ってClementineを誰だかわからなくなるJoelだがClementineとの結びつきをなんとか幼児の記憶に縫いつける。

18自動モードの記憶除去作業が突然中断した。Joelは予め作成した記憶の地図から逸脱していた。Joelが地図から忽然と消えた。Maryと楽しんでいたStanは焦る。Stanの技術ではJoelの痕跡を脳の記憶域に発見することが出来ない。
StanはMaryの提案でHoward博士を呼び出す。

Howard : He's gone off the map!
Joelは必死にClementineの思い出を地図の域外に隠そうとするのだが、急いで駆けつけたHoward博士は巧みにJoelをあぶり出す。Clementineと楽しくキッチンのシンクで湯浴みしていたJoelは見つけ出され、元の記憶除去作業に連れ戻される。

20記憶の消えるスピードが増す。Joelは博士に中断してくれと頼みたいがLacuna inc.の博士の記憶も薄れつつあった。夢の中で再び訪れた博士の顔は歪んでいた。
21Joelは屈辱の記憶を慌てて思い出す。
22Joelはいじめられっ子だった子供の頃の記憶に辿り着く。Joelを守ってくれた女の子はClementine。虚しいJoelの抵抗は続く。二人だけの時間が現れては崩壊していく。
Howard博士は逃さなかった。コンサートのピアニストのような鮮やかな手つきでHoward博士はJoelを引きずり出す。Joelに隠れる術は残されていなかった。



24そんなHoward博士を優しい眼差しで見つめ続けるMaryは博士に恋をしていた。Stanは気を遣って外に出る。
26思わず博士に口づけするMaryを博士はやさしく戒める。
夜中に急に飛び出した博士を追って怪しんだ妻のHollisが飛んでくる。
Maryと抱き合う姿をHollisに目撃され博士は必死に弁解する。Maryは「誘ったのは私」と博士をかばう。
Hollisの口からは意外な言葉が飛び出す。「Howardはあなたのものだったのよ」、Maryが自分の記憶を消すまでは・・。
茫然自失のMaryは立ち去る。博士とStanはJoelの記憶除去作業を続ける。


28会社に戻ったMaryは博士の机の引き出しの奥深くから自分の告白テープを見つけ出して事実を確認した。



30JoelがClementineと初めて出会ったMontaukの砂浜。砂に埋まる記憶。あの日、Clementineを置き去りにした誰もいない海の別荘。あの時のようにClementineは勝手に別荘に入っていく。Clementineは別荘を物色する。Clementineを必死に追いかけるJoelだが、Joelの記憶の中の別荘はもろくも崩れ去ろうとしていた。二階に上がったClementineをまたも残して立ち去ろうとするJoelにClementineは「今度は行かないで」と声をかける。「最初で最後だから、さよならと言って」
Clementine : Joely? What if you stay this time?
Joel : I walked out the door. There's no memory left.
Clementine : Come back and make up a goodbye at least, let's pretend we had one... Goodbye, Joel.
どんなにClementineが愛おしくてもJoelにそこにとどまるだけの力は残っていなかった。Joelに言えるのは、
Joel : ...I love you...
だけ。

ClementineはそんなJoelにそっと声をかける。
Joelの記憶に最後に残ったのは、そのひとつの言葉だけだった。
Clementine : ...Meet me in Montauk...



31Joelの記憶除去施術は夜明けまでに無事完了した。博士とStanは急いで機器を撤去する。博士は自宅に帰り、Stanは機器を会社に返す。
先に戻っていたMaryは会社から自分の手荷物を持ち帰ろうとしていた。MaryはStanに別れを告げる。同じ過ちを再び繰り返してはいけない。苦しんだ過去を忘れたことをMaryは後悔していた。忘却はいつも前進に繋がるとは限らない。罪を忘れれば再び同じ罪を繰り返す。コマを双六の振り出しに戻してもサイコロの目は以前と同じ。
Maryは今まで記憶除去施術を行った患者のテープも同時に会社から持ち出していた。




1記憶除去施術から目覚めたJoelは気分がすぐれなかった。その理由は自分では思い当たらない。昨日と同じ朝だと思いこんでいるJoelに記憶をなくした記憶はない。いつもと同じ退屈な日々の繰り返しのはずが特に今朝は落ち着かない。自動車のドアが酷く傷ついている。Joelの記憶からドアの傷が欠落していた。隣の自動車がぶつけたのか?

Joelには今日がバレンタインディーであることが余計に忌々しく思える。会社へ出勤する電車を待っていたのだが、Joelは急に心変わりしてMontauk行きに飛び乗る。まるで心の奥底の叫び声に突き動かされるように。



季節外れの2月のMontauk。誰もいない砂浜。Joelは日記帳を取り出すが、2年分のページが破り捨てられていた。Joelは小石の小さな粒の積もり重なった砂浜の砂を掘る。海辺の別荘には誰もいない。知らない女性が波打ち際を歩いている。内気なJoelは声をかけられない。
海辺の寂れたレストランでもその女性と出会うが初対面同士で会話はない。好きになりそうな予感はするがいつものことで珍しくはない。
帰りの駅でおどけたその女性を見かけた時には軽い挨拶程度にやっと手を振るが、Joelには見知らぬ女性は近くても遠い存在だった。
電車の中でJoelは日記にその女性を描いていた。その女性は少し離れた座席に座っていた。
女性が声をかけてくる。Clementineだと自己紹介。JoelはClementineの名前で誰もが連想する歌さえ思い出さない。Clementineで思い浮かべるすべてをJoelは忘れ去っていた。Clementineは勤め先の書店や髪の毛の話などしてくるがJoelには鬱陶しい。Clementineもどこか苛ついている。二人とも心の奥深くに鋭い傷の痛みを感じているがその訳は知るよしもなかった。
日記の絵の続きを描きたいからとJoelはClementineを避ける。

駅から一人で歩いて帰るClementineをJoelは家まで送る。JoelにはそのつもりはなかったがClementineに誘われるまま部屋に上がり込んで酒を飲む。親密さは増すがまだJoelは深入りするつもりがない。落ち着かないJoelは早々に家に帰る。

部屋に戻ってしばらく悩んでJoelは約束通りClementineに電話する。



二人はボストンのチャールズ川の氷面に寝転んで星空を眺める。二人が醸し出すつかの間の満たされた時間を一緒に過ごす。

朝になってニューヨークに戻る。Joelの部屋へ行く前にClementineは一旦歯ブラシを取りに自分の部屋に戻る
32ClementineのポストにMaryから「記憶を取り戻して」と添え書きされたテープが届いていた。そのテープをClementineはJoelの車で一緒に聞く。記憶を消す前にClementineが告白したテープ。Clementineは延々とJoelの悪口を言い、二人の間の嫌な思い出を語る。
悪し様に悪態をつかれ怒ったJoelはClementineを車から追い出す。

家に帰っても落ち着かないClementineは意を決してJoelの部屋に行く。部屋の隅でJoelも送られてきた自分の告白テープを聴いて落ち込んでいた。
好きだったのにすれ違う二人。テープのJoelはClementineの悪口を言い続けている。

Clementineは思わず部屋から逃げ出す。追いかけるJoel。

「もう一度やり直そう」
Clementine : Okay.
Joel : Okay.

まだお互いを知らない二人だが愛する心はそのままに消えてはいない。

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